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01.ノミ
ノミアレルギー性皮膚炎では、ノミの唾液に対してアレルギー反応が起こります。症状としては、特に腰から尾にかけての背中に紅斑(赤み)や丘疹(ブツブツ)が認められ、強い痒みが生じるために、なめて脱毛も認められます。ノミやノミ糞が見つかれば確定診断につながりますが、ノミアレルギーの犬では、1匹のノミであっても刺されると強い反応を示します。ノミが見当たらなくてもしっかり駆虫薬を使用し、ノミの活動性が落ちる冬場でも予防の継続をしてあげましょう。
また、自宅など生活環境中に潜んでいる可能性もありますので、毛布類のこまめな洗濯と掃除機や拭き掃除などで徹底的に清掃しましょう。同居動物がいる場合は、一緒に感染している可能性が高いため、併せて駆虫しましょう。
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02.疥癬
疥癬は、イヌセンコウヒゼンダニ(疥癬虫)という肉眼では見えない小さなダニの感染が原因で起こります。ダニの角質や糞などの代謝物に対してアレルギー反応が起こり、少数寄生でも強い痒みが認められます。
症状としては、特に耳の辺縁や顔、肘やかかと、腹部に鱗屑(フケ)を認め、また強い痒みを伴うためにひっかき傷を生じることもあります。感染力が非常に強く、接触するだけで犬に水平感染し、時にはヒトにも丘疹(ブツブツ)などの症状をもたらします。皮膚検査で疥癬虫を見つけることは容易ではなく、皮疹(皮膚の病変)などから判断し、駆虫薬を試験的に使用します。近年では、ノミ・マダニに対する予防薬で疥癬虫も駆虫されるものも多く、このタイプのアレルギーは減ってきている印象です。しかしタヌキなどの野生動物やノラ猫が感染していることも多く、家の庭や散歩コースで感染してしまう可能性もありますので、積極的な予防をおすすめします。
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03.食物アレルギー
食物アレルギーは、食物中の成分(主に蛋白質)に対して過剰に免疫反応を起こしてしまう病態です。特に眼周囲、耳道内、口周り、肉球の間、肛門周囲や間擦部に紅斑(赤み)や痒みを生じ、こすりつける、ひっかく、なめる行動が認められます。慢性化すると脱毛や苔癬化(皮膚の肥厚)、色素沈着(黒ずみ)も認められます。 1歳以下での発症が多いとされますが、どの年齢でも発症します。食物が原因なので、痒みは通年性で季節での変動は基本的にはありません。今までの食事内容を、おやつも含めすべて確認し、診断には除去食試験を行います。今までに食べたことがない蛋白質を使用したフード(新奇蛋白食)あるいは蛋白質を反応しないレベルまで細かく分解したフード(加水分解食)を1~2ヶ月間継続し、症状が緩和されていくかを確認します。おやつもアレルギーの原因になっている可能性がありますので、試験中は限定した食事と水のみを与えます。
除去食試験によって症状が少しでも緩和された場合、食物アレルギーを疑います。確定診断には、以前のフードに戻してみて痒みが再燃するかを確認する負荷試験を行います。
実際には、純粋な食物アレルギーの犬の割合はとても少なく、アトピー性皮膚炎が併発していることが多いです。しかし、食物アレルギーが認められた場合は、食事管理だけで痒みの程度が緩和されますので、疑わしい場合は積極的な除去食試験または食事内容の変更をおすすめします。
また、フード選びの手助けとしてアレルギー検査(アレルゲン特異的IgE検査、リンパ球反応試験)を検討する場合がありますが、犬猫ではヒトほど精度が高いものではなく、必須の検査とはなっていません。
食物アレルギーはどの年齢でも発症する可能性がありますので、常日頃から食事内容に注意しましょう。特におやつは、食事とは別と判断されがちですので注意が必要です。総合栄養食であれば、1種類のフードのみを与え続けていても栄養学的には問題ありませんので、おやつの与えすぎにも気を付けましょう。
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04.犬のアトピー性皮膚炎
犬のアトピー性皮膚炎とは、『特徴的な症状を呈する、遺伝的素因を背景とした慢性の再発性の炎症性および搔痒性の皮膚疾患であり、ハウスダストマイト(チリダニ)などの環境アレルゲンに対するIgE抗体の産生増加を一般的に伴う』と定義されています。また、犬のアトピー性皮膚炎に一致した症状を認めるものの、抗原特異的IgE抗体の産生増加を伴わない場合をアトピー様皮膚炎と呼びます。
ヒトのアトピー性皮膚炎と共通点も多く、遺伝的素因、免疫異常、皮膚バリア機能、常在菌の増殖、食事、環境アレルゲンなど複数の因子が関わっている多因子疾患と言えます。
世界的な好発犬種としては、フレンチ・ブルドック、ボストン・テリア、パグ、ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリア、ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバーなどが挙げられますが、日本では柴犬やシー・ズー、チワワ、トイ・プードル、ミニチュア・ダックスフンドでも好発して認められます。
症状は一般的には3歳以下で初めて認められますが、複数の因子が関与しているため、より高齢で認められることもあります。眼周囲や耳道内、口周囲、足先や肉球間、外陰部や肛門周囲、間擦部に左右対称性の紅斑(赤み)や痒みが生じ、こすりつける、ひっかく、なめる行動が認められます。慢性化すると脱毛や苔癬化(皮膚の肥厚)、色素沈着(黒ずみ)も認められます。また、通年性の食物アレルギーとは異なり、アレルゲンによっては季節性を示すことがあります。
日本には四季があるため、多くは高温多湿の夏に症状が悪化する傾向があります。反対に乾燥する冬に症状が悪化する場合もあります。診断は発症年齢、生活環境、皮疹分布(皮膚のどこに病変があるか)、ステロイドに対する治療反応など8つの基準(Favortの基準)を評価して行われますが、確実な診断を行うためには他の搔痒性疾患(痒みのある病気)や掻破行動(ひっかき行動)あるいは舐性行動(なめ行動)をもたらす疾患を除外する必要があります。
他の搔痒性疾患としては、膿皮症(ブドウ球菌の感染)やマラセチア(酵母様真菌)による皮膚炎、先に述べたノミ、疥癬、食物によるアレルギー疾患があります。また、掻破・舐性行動を示す疾患として、心因性の問題行動が考えられます。
犬アトピー性皮膚炎は遺伝的素因が背景にあるため、完治は難しい疾患となります。ですが、さまざまな因子が関与しているため、環境アレルゲンの回避や食事管理、スキンケアなどにより痒みの程度が緩和されることも多く、残った痒みに対してはアレルギー反応を抑える治療が中心となります。
痒みや炎症を抑える薬には、大きく外用薬と内服薬があります。症状が重症化している場合には積極的に内服薬を使用します。
昔から使用されているステロイド剤や免疫抑制剤(シクロスポリン)、また近年では副作用の少ないJAK阻害剤(オクラシチニブ)などがあります。さらには、ヒトの医療よりも一歩進んだ、月に1回注射する抗体医薬品(ロキメトマブ)もあります。
唯一、犬のアトピー性皮膚炎を治す可能性のある治療としては、減感作療法があります。ヒトではスギ花粉の舌下免疫療法が近年増えてきていますが、犬でもハウスダストマイト(チリダニ)に対する注射薬での減感作療法があります。
外用薬は局所性の皮膚炎や、急性期・慢性期の治療補助、再燃予防(Reactive療法/週1~2回塗布)として使用されることが多く、さまざまな力価のステロイド外用剤が使用されます。
このように、薬によって作用機序や副作用、治療反応もさまざまですので、動物病院で相談しつつ、皮膚の様子や経過を見ながら治療を進めましょう。予防としては、生涯付き合っていく病態を十分に理解し、痒みや炎症を増悪させる因子の回避を心掛けましょう。
具体的には、アレルゲンの回避(食事管理、環境清掃)と感染の回避(ノミ予防、ブドウ球菌・マラセチアの排除)、スキンケア(皮膚バリア機能の改善・保湿)が大切です。これらの管理により痒みや炎症の程度を緩和することが出来ますので、管理できない部分(根本的なアトピーそのもの)への治療薬や治療費も軽減されると考えられます。