症例紹介

角膜について

角膜は、眼球の前面にあり最も外側に位置しています。ドーム状を呈しており、透明な線維膜です。分かりやすく言うと、目を正面から見た時の「黒目」にあたります。
角膜は光を通す最初の入り口と同時に、ピントを調節する役割があります。カメラで例えるとレンズの部分に当たります。
光を透過させるため、常に透明でいなければならないので通常は無色素、無血管となっていますが血管が存在しないのにどうやって栄養を得ているのか不思議になりますよね。実は目の中を循環している眼房水や、涙腺などから出てくる涙から栄養を得ているのです。
角膜の厚みは動物種、品種により異なりますが犬や猫は大体0.5~0.6mm程の非常に薄い膜です。中心部は、辺縁部に比較して若干厚みがあります。
角膜には表層から上皮→実質→デスメ膜→内皮の順に4層構造に分かれ成り立っています。
上皮は、一番外側の表層部分で絶えず剥がれ落ち、入れ替わっています。1週間程で完全に入れ替わってしまいます。上皮は涙をうまくキャッチしておくことで外界から角膜を守る役割も担ってくれています。
実質は、角膜の90%を占め角膜の中で一番厚みがある部分です。主にコラーゲンで構成されています。こちらは入れ替わるのが非常に遅いため、完全に入れ替わるのに2年近くもかかってしまいます。
デスメ膜は、内皮の保護をする弾力性のある薄い膜です。
内皮は、ポンプ機能を有しており、眼房水を汲み入れ角膜の中の水分量を調節したり、栄養を与えてくれています。
角膜の表面には多くの知覚神経がはりめぐらされています。実際深い角膜の傷よりも浅い傷の方が痛い理由はここにあります。
角膜は体の中で最も敏感な組織になっており、その感受性のおかげで眼球を保護し透明性を維持してくれているのです。

目の症状で動物病院にご来院される中で、実は角膜のトラブルが最も多いです。その中でも特に多いのが角膜に傷ができている状態である「角膜潰瘍」です。角膜潰瘍について原因から治療までご説明していきたいと思います。

角膜潰瘍について

角膜潰瘍とは角膜がある程度の深さ以上に欠損している状態を言います。
角膜が受傷しその組織が欠損していくと、潰瘍部周囲の正常な角膜上皮が伸展・移動し細胞分裂を起こし上皮が再生されます。その後、線維芽細胞というものが合成され、角膜の実質を再構築していきます。角膜の細胞性は徐々に減少し、瘢痕を形成していきます。重傷例でなく、複雑な角膜潰瘍でなければここまでくるのに1週間程度となります。

角膜潰瘍の深さによる分類

  1. 表層性角膜潰瘍

  2. 実質性角膜潰瘍

  3. デスメ膜瘤

  4. 角膜穿孔

※①から④に行くにしたがって潰瘍の深さが深くなっていき、④は角膜に孔(あな)が開いてしまった状態になります。

角膜潰瘍の主な原因

  • 感染(細菌、ウイルス、真菌)

  • 異物や睫毛(まつげ)による刺激

  • 化学熱傷(酸やアルカリ)

  • 涙膜の異常

  • 眼瞼の異常

  • 神経の異常

  • 外傷性

  • 角膜変性部の脱落

  • 免疫介在性

犬と猫によって角膜潰瘍の原因となるものは異なります。犬は細菌感染や涙膜の異常によるものが多く、猫はヘルペスウイルス感染によるものが多いです。どこかにぶつけたり、自分でこすったりして傷つけてしまうことをイメージされるかもしれませんが、意外とそういったケースは多くありません。

角膜潰瘍の診断

一般的な角膜潰瘍の診断には、フルオレセイン染色という染色法と細隙灯顕微鏡(スリットランプ)を用いて行っていきます。フルオレセイン染色検査では角膜上皮が欠損している部分が染色されるため、細隙灯顕微鏡の光を当て、拡大しながら観察していきます。
場合によっては、その他の基本的な眼科検査(眼圧の測定や涙量の測定など)を追加していくこともあります。

角膜潰瘍の治療

内科療法単独で治療を行う場合もあれば、外科療法と組み合わせて治療を行う場合もあります。角膜の潰瘍の状態や原因に応じて以下の治療を基本的には選択していきます。

【内科療法】
  • 抗生物質の点眼

    二次感染予防で行う場合は、1日に3回の点眼を行います。細菌感染を伴っていて角膜実質の融解がある場合は2種類の抗生物質を2時間毎に点眼する場合もあります。

  • ヒアルロン酸の点眼

    角膜の修復に必要な涙膜の保護を目的として使用します。

  • 抗コラゲナーゼ薬の点眼

    コラゲナーゼ作用により角膜実質の融解を疑う場合に使用します。

    コラゲナーゼ:コラーゲン分解酵素

  • 抗生物質の全身投与

    細菌感染を伴っている場合には、内服薬や注射で治療します。

  • 抗ウイルス治療(猫)

    猫で多いヘルペスウイルスの感染が角膜潰瘍の原因となっている場合は、抗ウイルス作用がある内服薬や点眼薬などで治療します。

【外科療法】

1週間以上経過しても改善が見られない、もしくは悪化してきている場合は、角膜潰瘍の原因が何であるのか、悪化因子がないのか再度考える必要があります。
当院では角膜潰瘍の深さが角膜の厚みの50%以上を超えて深くなってしまった場合、潰瘍の深さや範囲、眼球の状態などにより内科療法に加え、以下の方法で外科治療を行っています。

眼瞼(がんけん)縫合

一時的に瞼(まぶた)を縫い寄せることで、眼を閉じている状態に近い状態を作ります。これにより角膜の露出が改善され、乾燥や物理的な刺激から守られます。また潰瘍の修復に欠かせない涙液を患部に集める効果があります。角膜の露出が原因となって治癒が遅延している場合や、手術後に患部の保護を目的として行う場合もあります。わずかな隙間から点眼をしたり、患部の経過を確認したりします。
抜糸をすれば通常通り眼を開くことができます。

結膜被覆術

眼科手術用の顕微鏡下で自己の結膜を患部に移植・縫合させる手術です。これにより血管やリンパ管組織を患部に供給し、免疫成分や薬剤、修復に必要な細胞を血管を介して供給させ、治癒を促すことができます。角膜潰瘍が治癒したら、術後2ヶ月程で、移植部分の根元の部分を切断し、移植部分を退縮させ混濁を軽減させることもあります。
自己組織を移植するため、ドナーの確保が不要であり、通常拒絶反応は起きません。

角膜結膜転移術

眼科手術用の顕微鏡下で病変部に隣接している自己の角膜と結膜を切開し、移植片を作成します。患部に移植片をスライドさせ、同じ組織である角膜を移植縫合させる方法です。
自己組織を移植するため、ドナーの確保が不要であり通常拒絶反応は起きません。
移植させる角膜に限度があるため患部が広範囲である場合、この術式は適応できません。

眼球摘出術

角膜の穿孔などにより眼球の形態が維持できない場合は、全身への感染予防、疼痛からの解放を目的として眼球の摘出を選択せざるおえない場合もあります。

内科療法、外科療法いずれにせよ治療を行う上でエリザベスカラーを適切に装着し、眼を保護することはとても大切です。動物は痛みや痒みを感じると患部を肢や目の前にあるものでこすろうとします。治りが悪くなったり、状況が急激に悪化したりする場合があるためエリザベスカラーの装着は必須となります。眼科疾患でなくても動物たちの治療をしていく上でエリザベスカラーを用いることは非常に多いです。普段からエリザベスカラーを付ける練習をして、抵抗なく装着できるといざという時にきっと役に立つでしょう。